大阪市立科学館に"自然科学の基礎を訪ねる"
高橋 憲明
大阪市立科学館は平成元年5月閉館となった大阪市立電気科学館
の後継館として,同年10月かつての大阪大学理学部の跡地,大阪市北区中之島4丁目に開
館した.建物は総床面積約9300 m2 で,地下1階と地上4層の展示室からなる.第
4層には宇宙,物理,化学の展示を主とし,第3層は電気の展示を中心にするとと
もに,観客を前に各種の実験を演示する実験室もある.また,第2層にはセン
サーを利用した測定装置などを置き,第1層は子どもたちが楽しく遊びながら,不
思議を学び,体験できる教育資材を配備している.現在,これら全体で展示物は約200点である.地下1階には直径26.5mのドームを有するプラネタリウム・ホールがあり,毎日3−4回ずつプラネタリウム投影とオムニマックス映画の上映をしている.
大阪市立科学館には毎年,50−60万人が訪れる.来年初めには開館以来の
入場者数1000万人を記録するであろうと予測している.来館者は幼児から一般ま
で幅広く,そのため,特にプラネタリウムでは幼稚園児たちのために幼児投影,
小学生たちのために学習投影を,また,全天周動画投影のディジタル・プラネタリ
ウムでは外国語(英語)のプログラムも用意している.プラネタリウム投影機は幸い
昨年更新でき,電気科学館時代から数えて第3世代にあたる.肉眼で見た夜空
に限りなく近い星の投影に成功するなど,世界第1級のものと自負している.オム
ニマックス映画はこのドームに投影され,迫力の点では申し分ない,座席数は
300余り,夏休みや週末はいつも満席になってしまう状況である .
本来,科学館の目的は社会教育施設の一つとして自然科学の面白さ,科学知識
の普及が第一に挙げられる.一時は入館者の低年齢化を反映してか,幼児向きの
展示を増やしたいという声も聞かれたが,最近では成人や若い人も増え,アンケート
によると,難しくとも本当の科学を知りたいとの声が多いことが分かってきた.大阪大
学理学部の跡地として恥ずかしくない本物の科学を体験できるように,と願っている
ことが実現できそうである.事実,大阪市立科学館友の会では初代館長の中野董夫
先生が始められた,市民のための相対性理論教室が現在も脈々と続いている.また
同会では,2007年UNESCO湯川年を前に,湯川秀樹研究が始まろうとしている.
中間子論発祥の地で一般市民が第一級の物理学に取り組もうとしているのである.本
館の一つの雰囲気を表す好例である.
今回,世界物理年を機に学校と科学館が協力し合って,科学普及と啓発の企画
「自然科学の基礎を訪ねる」を発足させた.これを1例として,大阪市立科学館の基
本姿勢を説明し,筆者に与えられた題目の一部としてお伝えできればと考える.
この企画の経緯はWeb文庫の「大阪と科学館」に掲載して頂いているが,隣接する
大阪大学中之島センターでの「最先端の科学を市民に」と大阪市立科学館での
「青少年による科学館ガイド」からなる.後者は「科学の基礎を訪ねる」を
発展させたもので,科学館の豊富な展示物を前に,中学生,高校生,大学生
が,教員や学芸員の指導のもと自ら研鑽する.そして自分たちで研究開発し
た資料や器具を用いて,子どもたちから一般の見学者に,基礎から最新の科
学にわたる展示物の解説を行う科学教育指導者養成の実践計画である.この
計画を2年半前,世界物理年を意識して試行しようと計画したとき,どこまで行けるか
疑問視される方々もあったようである.第1回の試行は昨年8月,恒例の「青少年のた
めの科学の祭典」大阪大会で「科学の基礎を訪ねる」の題目のもとで行った.この班
は関西サイエンス・フォーラム理科奨励賞を受賞するに至った.本年は規模が5倍に
なり,参加する学生生徒は100名以上となった.このためには大阪教育大学附属高
校,中学校の教諭がたの献身的な努力があった.世界物理年日本委員会はこの企
画を世界物理年日本委員会秋の行事と位置づけられた.また,本年度は大阪教育
大学は大阪市立科学館との協力企画として援助してくださった.
遂にやってきた11月19日(土),学生,生徒たちは朝早くから科学館研修室に集ま
り,最終の準備を整えるべく熱気に満ちていた.東京から世界物理年日本委員会の
副委員長,並木雅俊教授が駆けつけてくださるとのことで,急遽開会式を開催するこ
ととなった.先生は一歩この部屋に足を踏み入れたとたん,この催物が大きな成功を
収めることは間違いないと思ったとまで言ってくださった.丁度私のところに来ていた,
もと欧州物理学会核物理学部会長だったイスラエル・ワイツマン科学研究所の
Goldring名誉教授も若い人たちの熱気に強い印象を受けたようで,コペルニクスを
例に引き自然科学に国籍はないとの挨拶をされた.
もともと,科学館の入場料は中学生以下無料に設定してあるのではあるが,11月19,
20日の週末は関西文化の日ということで,科学館の展示場の入場料は無料の取り計
らいとなった.両日で入場者の総計は約5000人である.入場者はそれぞれ何らかの
形で自然科学の基礎を訪ねるの企画に参画したようで,多くの意見が寄せられた.
展示がよく理解できたとか,解説に当たった学生,生徒たちの説明の明快さに感激
したとか....
学生たちは2日間本当によく働いた.夜遅くまで,後片づけと資料の整理なども,担当を決め整理する手はずも整えた.反省会の予定が12月11日(日)に決まったが,これを待たず,来年もやろう,再来年の湯川年には必ずという声しきりである.学生,生徒たちは自身で学習と研鑽に臨み,その結果,自分の知識がだんだんと確実なものになるのを感じる一方,説明を受けた人たちが徐々に理解を示し,やがて科学の驚異に感激する様を見て自分たちが科学を通して成長したのをはっきりと感じ取ったという.この話を聞いて感激的だと言ってくださった方もおられる.
科学館を訪れる人々には喜ばれ,担当した人々の充実感が大きいこの企画は学校, 大学とともに科学館の可能性を十分に追求したものであると認識している.中高生,大学生がテーマ選びから始めて自発的に勉学するのを学校,科学館が協力して応援し指導員としての訓練を積む.その成果は,観客への分かりやすい解説で科学の普及・啓発に大きな役割を果たし,また,参加者自らの成長と発展に大きく寄与するのは嬉しいことである.今後,科学普及の若いリーダー養成の新しい教育プログラムとして発展させるなど,これを学校・科学館連携の新しい理科教育法の一つとして提唱したい.知の教育から智の教育への大きなステップである。
参考にあげた別刷
『大阪発の科学技術・文化』はもともと,関西の大学連合である,大学コンソーシアムのために書いたもので,
Plagenom誌の求めに応じ書き直しその2005年第3号に掲載されたものである.発行
者の同意を得てここに転載する。
『大阪と科学科学館 -世界物理年を機に- 』は,大阪大学の”生産と技術”第57巻第4号(2005) pp. 3-5に書いたものを,発
行者の許可を得て,転載するものである.そのさい写真を色刷りにし,カットを省略す
るなど,多少の変更をしている.
謝辞:「自然科学の基礎を訪ねる」開催の週の始め,世界物理年日本委員会から経費の補助が可能になったとのご連絡を頂いた.日本委員会の方のお話や,問い合わせの結果として早くから諦め
ていただけに,懸案の問題が解決しそうで大変有難く思っている.
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